選ばれる美容師、選ぶ客

「男の美容師さんって年とったら独立したがるんですよね、居づらくなっちゃうから」

美容の専門学校へ通っていたある後輩の言葉に驚いた。

田舎のわたしの地元でも美容室はそこかしこに見かけられて、これ!というお気に入りの店を見つけるまでいつも迷ってしまう。

良い美容室の見分け方とかない?なんて気楽に聞いてみたのが始まりだった。

「だっておじさんに髪触られるのって嫌じゃないですか。お客さん的には、多少下手でも若くておしゃれな子に切ってもらいたいって思うでしょう」

西野カナみたいな、と言葉が続く。

なるほどなるほど、確かに美容師さんのイメージといったらおしゃれで、とにかくおしゃれで、若い人が多かったと思う。

なんせ「サロン」という世にもおしゃれなワードを使うことが許されているのだ。

手の込んだカラーリングやワックスでぴしりとセットされた美容師さんに連れられて、あのピカピカの床を歩くのはいつも緊張するし、特別感にわくわくした。

その中で40歳以上と見られる男性は見たことがないかもしれない。

女性はたまに見かけることがあったけれど、こちらも多分少数だ。

おしゃれな美容室はつま先からてっぺんまでキメた、若い美容師さんでいつもいっぱいだった。

勿論、地元密着型の気楽な雰囲気のお店ならもう少し状況も変わってくると思うが。

「なので美容師ずっと続けたい男の人はオーナー側にまわろうとするんですよ」

後輩はそう続ける。

渋谷、原宿あたりをうろついていると沢山の美容師さんが声をかけてくる。

多くは新米美容師が修業のために頭を貸してくれる人を探していたり、店舗への呼び込みだ。

狭い地元でも小さなチラシを配布している美容師は何人も見かける。

なんでこんなに美容室はあるのか、その答えが後輩の言葉で少しわかった気がした。

ではそんな数多く存在する美容室の中で良い美容室の見分け方というのはないのだろうか。

当時、長年指名させてもらっていた美容師さんが病気で退職してしまい、わたしは新たな美容室を探し求めて何件もまわっていた。

特別髪にこだわりがあるわけではない。ショートカットの好きなわたしにとって美容室は頻繁に通わねばならない場所であり、通うからにはリラックスして過ごしたいという気持ちがあったのだ。

しかしイメージしていたのと全く違う仕上がりにされてしまったり、お店や客層の雰囲気が合わなかったりと二度と行かない美容室だけが増えていく。

インターネットでレビュー評価の高い店も行ってみたが、いまいち期待はずれなことが続いていた。

これだけ数多くある美容室の中で、外から見ただけで「当たり」だとわかるような見分け方はないものか?

「うーん… お店っていうより美容師さんそれぞれだと思いますよ。お客さんとの相性が一番ですから」

「鏡がよく磨かれている」とか「鋏がよく手入れされている」などあるらしいが、見ただけで良い店だと判断するには難しいらしい。

それよりも美容師個人と客とが「合う」かにかかっているというのが後輩の意見だ。

確かにあの退職してしまった美容師さんのことが思い出される。

彼女はわたしと同年代だったので話の趣味が合っていたし、カラーリングやセットの仕方を面倒見のいい友人のようにアドバイスしてくれるところが好きだった。

そしてカットの技術はとびきり上手ということはなかったと思う。

前髪を切ってもらうと後から切り損ねた毛何本も出てきたことはしょっちゅうだったし、なんだかなあと思う仕上がりもあったのだ。

それでもこの人に切ってもらいたい、と思い続けて長年通っていたのだった。

わたしが美容師に求める条件はリラックスして楽しい気分にさせてくれるかが重要だったのだとその時気が付いた。

ハイレベルな技術でスタイリングしてほしいという方も、ただ短く切り揃えてもらえればなんでもいいという方も、美容室は苦手だと思う方も、もし今通っている美容室に満足していないのなら新たに他のお店を試してみてほしい。

ご存じの通り美容室はそこかしこに沢山あり、その中にはきっとあなたの要望にマッチした美容師さんがいるからである。

ところで最近わたしはやっとお気に入りの美容師さんを見つけることが出来た。

これでやっと美容室通いが楽しめそうだ。

今回の人は特別おしゃれでないが、要望を聞きつつ似合うスタイルを吟味してくれるところがとても気に入った。

そしてなんとわりかし年配の、技術のしっかりした男性だ。

マッサージを受けるとしたら考えてしまうが、髪をいじってもらうのなら是非お願いしたいと思っている。