浅き夢見し

押切もえさんが最近文芸誌デビューを果たしたらしい。これを聞いたときにはそれはもう驚いてしまった。

押切もえさんといえばとても美人なモデルさんだ。テレビはほとんど見ないわたしはそれしか知らないが、それだけでも十分だろう。昨年に小説家としてデビューされてるのも知っている。「意外な才能が」なんて高評価なその本の噂も聞いていた。

しかしまあ、 流行の本に手を伸ばすのは躊躇ってしまうのが捻くれた読書家だ。ご本人のキャリアからしてその本が取り上げられるのは芸能ニュースのカテゴリが多く、なんとなく読む気になれなかったのだ。わたしはまず食わず嫌いを起こす癖がある。

そこでの文芸誌デビューである。文芸誌といえば文字に文字をかけて食べてそうな人種の集まる所。これは作家としてガチなんだなと確信した。そしてやっとこさ処女作「浅き夢見し」を読んだのだった。

これはざっくり言えば売れないモデルである主人公が努力を重ね成長していく物語。シンデレラストーリーという説明のされ方のある話である。

いやあ吃驚した。センスのある描写で最初から最後までとにかく読ませてくれる。なにより前半の売れないモデルとしての主人公の、自己嫌悪にまみれた描写には本当に驚いてしまった。あんなの体験したことが無ければ書けない代物だ。自分の靴を恥ずかしく思ってしまう心理なんて、あの超人気モデルの押切さんが描写出来るのかと驚いた。そこから夢に向かう主人公の努力の積み重ねがまたリアルで感心する。

本のレビューには「自己投影」「薄っぺらい」なんて酷評もあるが、わたしはそうは思えない。確かに文字に文字をかけて食べたいときの気分には向かないだろう。題材が題材なだけに若いこ向けと言われるのも仕方ない。だが著者は読んだ人に勇気を与えたいと言っている。この本はそんな熱意に溢れている。小説の体をとった自己啓発本と言ってもいいのではないだろうか。この努力この苦労、モデルとして成功するわけだと納得してしまった。

今後も書かれたものはチェックしていこうと思う。果たして押切さんが文字に文字をかけて食べたくなったときにはどんな物語が飛び出すのだろうか。

考えるとわくわくする。 

浅き夢見し

浅き夢見し