洗濯の罠

晴れた日曜の朝といったら洗濯しかない。

平日が他所を向いているうちにさっさと片づけてしまうに限る。

そんな方は大勢いらっしゃることと思う。

わたしもその日の朝、外の天気を確認するとすぐに例の二層式をフル稼働させることにした。

ちょうど去年の今頃、晴れた日曜だったと思う。

この際だからと寝間着もすべて洗うことにして洗濯機を動かしていると、ふと玄関のチャイムが鳴り響いた。

日曜の午前から押しかけるような来訪者といったら宗教勧誘あたりが即座に浮かぶ。

現にそういった人たちは何度も、それも休日の朝ばかりに集中して押しかけてきていたからだ。

仮にも女なんだから怪しいと思ったら居留守を使え!なんて家族にも言い含められている。

わたしはそっとインターホンに近づきモニターを覗いた。

そこには高校生と大学生の境目くらいの若い女の子が立っていた。

宗教勧誘にしてもなにかの業者にしてもここまで若い人は見たことがない。

いかにもまだ学生のような幼い表情のその子は誰かが出てくれるのをそわそわ待っていた。

もしやお隣さんの彼女か?部屋を間違えてしまったのか?

それとも引っ越しのあいさつに来たご近所さんか?

その女の子のあまりの幼い印象に思わず通話ボタンを押して返事をしていた。

「あっ、こんにちは!」

画面の向こうの女の子は少し緊張したように喋りだす。

細かいところは忘れてしまったが、要はその子はボランティアで絵はがきの販売をしているらしかった。

聞いた瞬間素直に出てしまったことをちょっと後悔した

「是非お話だけでも聞いてください」と健気にしめくくりドアが開くのを待つ彼女。

いかにも面倒そうに聞こえたが、ここまできて無視を決め込むのは気がひけた。

昔からちょっと気の弱そうなかわいい女の子には弱いのだ。

まあ悪い人そうじゃないし、なんて仕方なく玄関のドアを開けそうになったときにはたと気づいた。

自分、全裸だった。

背後では洗濯機が楽しそうに脱水しているのが聞こえる。

ああそうだ身に着けていたものも全部洗ってしまえと放り込んだのだった。

一人暮らしなのをいいことに下着もつけず「着る毛布」をいい加減に羽織ってるだけの姿だった。

慌てて毛布についている1つしかないボタンをとめたが所詮は毛布。

これで外開きのドアを開けるために腕を突き出せば腹まで見えるだろう。

あんな純真そうな女の子に向かって日曜の朝から痴女行為である。

瞬間的に考えを巡らせクローゼットに残っている衣服について思い出そうとしたが「全裸」という状況に慌てるあまり頭は動かず、

「ごめんなさいわたし今なにも着ていなくて…全部洗濯しちゃってて…出られないんです、ごめんなさい」

つい素直に包み隠さず伝えてしまった。

あのときモニター越しに見た女の子の驚きの表情が忘れられない。

しかし一瞬の後、その子は口元に手をあててさも面白そうに笑い出してくれた。

この際ドン引きされるより笑ってくれるほうがまだありがたい。

「本当にごめんなさい…服さえあったらすぐ出られるんですが…あの、パンフレットとかあったら是非入れてってくださいね…ごめんなさい」

とにかく喋り続けた。

ああ女だからこんなこと言ってもまだ許される、良かった。

いやこの場合良くはないのか。

照れたように本当に楽しそうに笑う女の子に妙なトラウマを植え付けまいと誠心誠意こめて語り掛けた。

その甲斐あってか「あの、風邪ひかないようにしてくださいね」と天使の一言を残して女の子は帰っていった。

嵐は去った。

無事洗濯もおわり服をきちんと着るとやっと人心地がついた。

ちなみにポストにはパンフレットの類は全く見当たらなかった。

最初からそういう物は持っていなかったのだと信じたい。