デパート前の八百屋は強し

初めて一人暮らしを始めるにあたり不安だったわたしは周囲の人へ生活のアドバイスを聞いてまわっていた。一昨年のことだ。

自炊についてだとかゴミ出しについてだとか、細かいことまで他方から色々と教えてもらった。中には「なんとでもなるから準備しないでも大丈夫よ」と言われたこともある。それを聞いたときには内心本当かどうか疑ってしまったがそれは結果当たっていた。確かに実際経験してしまえばなんとでもなるもんである。

そんな中で父に近所の中で良いスーパーの見つけ方について聞いたところ、こう教えてくれた。デパート前の八百屋が一番強いと。

「デパートのそばにある店は生き残るのが厳しいものだ。普通に経営していたら客はデパートで買い物するに決まっている。

それでも生き残っている店があったら、その店にはデパートには負けない何かがあるんだ。扱ってるものが新鮮だとか、とにかく安いとかな。そういう店は逆にデパートを広告塔にしてどんどん客を集めてるんだよ」

父はこう語る。

考えてみると確かにそうだ。大きなデパートのすぐ近くにはやたらと元気な八百屋や小さなスーパーがよく目に入る。店構えや照明の明るさなんかはデパートに到底及ばないのに、いつも人がいっぱいなのはそういう理由があったらしい。

わたしの両親は昔から「卵を買うならあの店」などと決めていて、週に一度の買い物の際には車で何件も店をはしごする戦法をとっている。それになかなかの目利きであり「あの店はもう駄目だな」なんて言って定期的に巡回する店が変わりもする徹底ぶりだった。

家事に殆ど参加していなかった父も何故か食材にはうるさく、新鮮な魚や美味しそうな果物を安く見つけては昔から嬉しそうに報告してきていた。良いものを安く買うことをゲーム感覚で楽しんでいる人なのだ。そんな父だからこそわかる知恵だと感心してしまった。

ついでに父は新鮮で美味しい食材の見分け方も教えてくれた。曰く良い食材はウィンクしてくるらしい。昔から衝動買いを母に怒られる度に「この苺がウィンクしてきたから仕方ないんだ」と言って煙に巻くのだ。苺だろうがハッサクだろうが目を開きっぱなしでパックされたサンマだろうが、父に言わせるとウィンクしてくるらしい。

ここまでくると初心者のわたしには少しハードルが高い。