テレビのない生活

出会ったばかりでまだお互いのことを知らないもの同士が、例えばランチを一緒にしなければいけなくなったときによく話題にでることがある。

「好きなテレビ番組はなんですか」これだ。

そう聞かれると少し構えてしまうが、実はもう何度も経験してきたことだ。

臆せずに答える。

「テレビ持ってません」

わたしは数年前から急にテレビを見なくなってしまった。

子どもの頃にあれだけかじりついて見ていたのが信じられない。

働きに出るようになって暫く実家暮らしをしていた頃、帰ってくるのは他の家族より遅く21時前後になるのが常だった。

すると当然リビングでは父がくつろいでテレビを見ながら一杯やっている。

定年を迎えた父はテレビが大好きだ。

意識しなくても聞こえてくる、目に入ってくるテレビをなんとなく意識しながら夕食を済ませる日々。

あるとき仕事で疲れている頭に見たくもないものが飛び込んでくるのに嫌気がさし、「わたしがごはん食べているときはテレビを消してくれ」と頼んだ。

それを聞いたときには父は大層驚いていたと思う。

食事中に見るテレビの嫌いな人間なんていないと思ってたことだろう。

幸いわたしは他の家族とは生活リズムがすれていたのと、

父はHD録画を駆使し毎日テレビ番組を録り貯める習慣がついていたので見たいものを見逃す心配なく、

面倒ながらも家族はその通りにしてくれた。

仕事が中心の生活ではこれといって「見たい番組」がなくなってしまった。

帰ってくるのが多少人より遅い生活だったかもしれない。

昔と変わらずドラマもバラエティもあるのに興味がなくなってしまった。

かわりにSNSや動画サイトや情報まとめサイトとネットに面白いものは溢れている。

暫くは帰ってくるとテレビを消してもらう生活を続け、そのうち実家を出て一人暮らしを始めることになった。

ベッド、テーブル、洗濯機、冷蔵庫、まず大きめの家具家電が揃うように手配した。

テレビは最初から買うつもりはなかった。

同じく一人暮らしの友人や姉には「テレビもない一人の部屋は寂しくない?」とよく聞かれた。

そういうときはYoutubeや借りてきたDVDで補うことにする。

テレビはなくてもノートPCは必要だった。

PCを開くと検索サイトのトップには最近のニュース一覧が並んでいる。

SNSをやっていると現在話題のものは画像つきで流れてくる。

その中から気になったものだけを詳しく調べることにしていた。

テレビのない生活はまず頭を休めてくれた。

夜疲れて帰ってきたときに、仕事で新しく増えた知識やその日にあったことを自然に整理する時間をくれた。

仲間同士の昨日のドラマ感想の話題にはついてけないけれど、みんな大人になってしまえばそれが原因でいじめに遭うこともない。

おすすめのドラマを教えてもらい、気になったらDVDレンタルという手で話にも入っていける。

今のところ一人暮らしなのだから自分の意見だけで生活できる。

テレビはなくてもやっていける、というのが持論だ。

ではテレビのない生活で「テレビがあったらなあ」と強く感じることについても書いてみよう。

ここまで語っておいてそんなものあるのかと言われるかもしれないが、当然ある。

例えば天気予報。

テレビのない生活で強く不便を感じたのが天気予報だ。

政治ニュースも芸能ゴシップも娯楽も正直ネットでどうにかなる。

だが天気予報だけはそうもいかない。

なんたって「今日は傘を持っていくべきか」「洗濯物は干しっぱなしで大丈夫か」というのにも実生活がかかってくるからだ。

わたしのような小心者は出来れば細かに毎日知りたいものだ。

ネットやアプリで天気を知らせてくれるものは沢山あるが、当日のものでもまず情報が少ない。

詳しいものだと当然文章で何行も細かく説明されることになる。

正直「わざわざ天気について調べる」行程がめんどくさい。

天気予報図だけ画像表示されても素人には全くぴんとこない。

うっかり雨マーク晴れマークの予報だけ見て油断していると台風が接近してることにも気づかなかったりする。

テレビ特有の「意識しなくても情報が流れてくる」に天気予報はぴったりだ。

言葉で「洗濯物のよく乾く」「セーターが必要な」「冬とは思えないほど」と天気予報士が表情豊かに教えてくれる。

毎日知りたいことだけに、時間をかけず印象に残るようにさらっと解説してくれるのは本当にありがたい。

わたしにとってテレビは今のところ必要ないが、天気予報だけは少し恋しい。