二度とたどり着けない名店
酒飲みには各々、二度とたどり着けない店がひとつやふたつあるんじゃないかと思う。
わたしはお酒が好きだ。
友達とわいわい飲むのも、職場の人とお疲れ様と言い合いながら乾杯するのも、家族内でゆっくり飲むのも良い。
もちろんひとりきりで家で映画を観ながら飲むのも好きだ。
次の日はお休み!なんてときだと最高に美味しい。
ところが致命的なことに、わたしはそこまで酒に強い体質ではない。
飲み方も知らず、若さに任せて飲んでいた頃はひどい失敗体験もたくさんしてきた。
今だって日本酒やワインにはよく泣かされる。
それでも尚お酒が大好きなんだからしょうがない。
将来医者からお酒を制限されることのないよう、健康への努力も欠かすまいと誓った身である。
そして楽しい時間を過ごすために酒処の開拓は欠かせない。
一度入って気に入ったお店には何度だってまた来たいと思うものだ。
特に全員女性の集まりでは「場所どこにする?なに食べたい?どうしよっか」といまいち決まりづらくなってくるので、良いお店を知っていて損はない。
そこで冒頭に戻る。
今まで訪れた酒処で、また行きたいとどんなに願ってもたどり着けない店がわたしにはいくつかある。
一軒目でほどほどに酔ったあとふらりと知らない道へ入りその先で見つけた、そんなお店がそうだ。
そこのお酒の品ぞろえや料理の美味しさや店の雰囲気がどんなに良かったかは思い出せても道順だけはどうしても思い出せない。
飲んで飲んでふらふらしてるときに偶然見つけたものだから当然ともいえる。
このネット時代、店の名前さえわかればどうにでも調べられるが、
酔っ払いの頭にそんなことを求めてはいけない。
わかるのは精々店員さんのユニフォームの色くらいである。
一緒にそのお店へ入った友人も同じく酔っ払いなのでどうしようもない。
「え?そんな店行ったっけ?」なんて後日返されるとまさか自分の夢の中での出来事なんじゃと不安になったりもする。
確かここを曲がって、ここを… なんて記憶を辿りながらうろうろしてみて、運良く見つかるときだってある。
それでも見つからなければそこで終了だ。
もはや打つ手はなし。
偶然見つけ、偶然足を踏み入れ、偶然良い具合に記憶がぼけて…
沢山の偶然が重なることでそんなお店は作られる。
きっと店自体は無くなったりせず今日もどこかで営業しているのだろう。
ただしわたしには二度とたどり着けない店だ。
あのときの楽しい記憶だけが残って、まったく惜しい。